版下製作・新規の依頼の際に必要なもの

「印刷を頼みたい、だけど資料やデータは何が必要なんだろう?今ある物だけで大丈夫だろうか?」そうお感じになることはありませんか?。あらかじめ必要な情報・資料などを決まった形でご案内できれば良いのですが、お客様のご事情により、ご用意いただけるものも限られる状況もあろうかと存じます。

このページでは、弊社で扱っているシルクスクリーン、パッド、インクジェットの各印刷方式での前提になりますが、通常必要とされる資料・データの仕様についてもカバーしつつ、「版下の作成」という視点に立ち、なぜその情報・資料が必要とされるのか?ない場合はどうなるのか?ということについてご案内させていただきます。

紙焼き原稿 → 画像データ → 版下データ、となるまで(?)

版下とは何か?

シルク印刷・パッド印刷のような版を用いて印刷する方式と、版が不要なインクジェットでは少し様子が異なりますが、どちらも印刷を行うためには、印刷する図像の何かしらの「原稿」がなくてはなりません。ですが単に原稿といってもその状態はラフなイメージ・スケッチ的なものから、外観全体のデザインを表すもの、そして、実際の印刷作業で印刷される図像と同じ内容のもの、と云う具合に幅があるのですが、ここでこれから説明する「版下」とは最後の印刷される図像と直結される原稿を指しています。

「版下なくして印刷なし」とは印刷関係の版下製作担当の人が日々の厳しい業務圧力によって切なくも染み出てしまった言葉ですが、確かにこの版下ができなくては印刷が始められないのは事実1 であって、なおかつその製作にはご案件全般に渡る情報・資料が関連しています。このことから本記事では版下とその製作過程に紐付けながら、お客様が新規に印刷依頼をされる際にお伝えいただきたい情報・資料はどのようなもので、それはどうして必要なのかということについて説明をいたします。「必要なものがない!」という時のやり取りについても、いくつか例をあげて解説いたします。

 

版下製作を取り巻く作業フローチャート。顧客と弊社の業務範囲、および版下製作を境としたコト領域とモノ領域も図示。
版下製作を取り巻く作業フローチャート

上のフローチャートをご覧ください。最初の製品のイメージ(理想・完成イメージ)から各段階を経て、本印刷(量産)を開始するまでを図式化しています。図のメイン工程のアウトラインをざっくり説明しますと、お客様での製品イメージの設定、デザイン・設計から始まり、印刷指示に必要な各種資料・データが作られます(ここまでお客様サイドにて)。その後お客様からの弊社への打診・印刷依頼の段階で、これらの資料・情報をご支給・ご提示いただき、弊社ではこれを元にどのような印刷手法・工程が適正か?というようなプロセスの検討を行い(プロセス設計)、版下作成を行います。その後シルク・パッドの場合は製版→インク調色等行い、インクジェットでは色調整をへてから、試作・色校正・限度見本など実施し、これに対してお客様よりOKを頂いたら本製作(量産)の印刷・加工作業に移るという流れです。試作・色校正・限度見本の結果がお客様でNGと判断されれば、それまでのいずれかの段階に戻り、OKとなるまでやり直します。

さらに図は右半分と左半分で領域を分けています。左側ではアイデアの発生からデザイン・設計、相談や擦り合わせによって「何に(を)どう印刷するか?」についてのプランニングの段階だといえます(「コト段階」)。その後(図の右側では)、版下製作をへて製版や調色などの用品や、試作品の作成など印刷物の完成に向けた、手で触れることができるモノを通した製作段階—物(製品)の実体化作業(「モノ段階」)に移行していきます2

この「コト段階」と「モノ段階」の境に版下製作があります。版下製作は「どのように印刷するか?」の情報に基づき作成されます。つまり、コト段階でまとめた情報をモノ段階へ引き渡すための翻訳作業を行うのが版下製作作業であり、版下とは、それまでの色々な情報を平面上3に展開されたものといえます。だからどうした?と言われそうですが、とりあえず今の時点では「フーン」という感じで受け取っておいてください。

版下を作る

版下は具体的にはどんなもので、どうやって作られるか?ということについて解説します。

まずシルク・パッド印刷は基本的に1色づつ印刷する印刷方式なので、1色1版(1版下)の構成で、外観(?版下の見た目?)的にはインクが出る部分=印刷される部分が黒で表現され、インクが出ない印刷されない部分は白(あるいは空白)の画像データです。インクが出る部分=図柄を俗にパターン4と呼んだりします。

シルクスクリーンは、基本的に1色、1版の対応です。(例外もあります)
シルクスクリーンは1色につき1版(パターン)
インクジェットで印刷されたおじさんのバンダナを拡大すると、C,M,Y,Kの4色のドットで構成されていることがわかります。
インクジェットのドット構成(あくまでイメージです)

インクジェットは会社や家庭でもプリンターを使用されている方も多いかと思います。 版下の外観を云うならば≒出力したい外観5、と云うことになります。プリントは一般にCMYKの4色のインクをとても小さな点で出力し、その密度のバランスによって表現されます。カラーのインクは半透明で、家庭やオフィス用では主に白い紙などのメディアに印刷することで発色を得ていますが、工業製品印刷では色々な材料や製品に直接印刷を行うため、発色やインクの密着に必要なホワイトやプライマーの版下データをカラーとは別に作成します。

版下製作作業としては上の図柄の部分だけでなく、プロセス設計に従って主に;6

  • 【ア】パターンの作成・描画
  • 【イ】色分版(工程分版)
  • 【ウ】トンボやガイドマークの設定

上の3つの要素を加えます。

【ア】パターンの作成・描画 は先述の図柄の作成です。文字や記号なども含め、図面やプロセスの指示に従って配置します。近年では個々の図柄については「版下データ」としてお客様から支給受けることも多くなりました。

【イ】色分版(工程分版)はこの言葉通り、【ア】のパターンから色毎あるいは工程毎に必要な版下(その色・工程でのパターン)を作る作業ですが、シルク・パッドは1色=1版なので、【ア】と【イ】は同列の作業になることがあります。色毎だけでなく「工程毎」としている点に注目してください。これは印刷工程の中には、印刷物として見えている層だけでなく、隠れている印刷層(ある目的のために付帯的、追加的に行われる印刷工程7)があり、例えばシルクスクリーンでの工業製品への印刷は、印刷塗膜の透けや耐久性を上げるために「押さえ」という追加的な印刷工程を設けます。インクジェットでも、印刷されるものによっていわゆる特色と位置付けられるホワイトや被印刷体8に密着させるプライマーなどへのデータはカラー9とは別に必要なので、個別に版下データを作ります。

【ウ】トンボやガイドマークの設定 はいわば、印刷の位置合わせの仕掛け作りの作業です。主に二つあり、一つはいわゆるトンボ(位置合わせのための罫線やマーク)を配置する作業です。例えば、何らかの部品に印刷するとき、その部品の形状の形に沿った罫線を版下に配置することで、それを頼りに部品と印刷の位置合わせを行うことができます10。また複数の工程間(印刷のプロセス間、あるいは印刷とその後の加工工程なども)で位置ズレが生じないように、基準点となるマークや罫線をそれぞれの工程の版下に配置します。

二つ目は、印刷工程が複数の工程に渡る場合ですが、工程間で多少の位置ズレを吸収するために、一方のパターンを太らせたり、細らせたりする作業を行います(「トラッピング処理」)。例えば、表の体裁面から見える外観の色の印刷と、その後で透け防止のための押さえの色を印刷するとき、最初のパターンはジャストのサイズで、その色の押さえとなる工程のパターンは位置ズレを吸収できるように僅かに小さいパターンで版下を作成します11。ちなみに、どの程度太らせたり細らせたりするかは、パターンサイズ、仕上がりの見栄えの想定、印刷精度に対する経験などを加味し判断します。

プロセス設計について

冒頭の図の説明の中でも触れましたが、版下製作はプロセス設計12に基づいて行います。プロセス設計は、お客様の完成イメージ=仕様要求を満たすべく、どのような印刷方式を用い、どのように工程を重ねていくか?という検討・プランニングの作業です。印刷のみだけでなく、付随する社内・社外の加工等の工程を含めたプロセス全体にわたり、工程順序や工程間の整合性(品質・効率・経済性・納期)について最適と思われるプロセス探っていきます。具体的には下記のような事項について考えながら設計を行います;

  • 印刷方式の選定:どんな印刷方法が最適か?13多くは単一の印刷方式になりますが、インクジェット+シルクなど複合的なプロセスを用いることもあります。
  • 隠れているプロセス:仕上がりの外観・性能を満たすために、発色や隠蔽性など発揮するための付帯的・副次的な印刷工程が必要かどうかを探します。(先述の「押さえ」工程などはこれにあたります)
  • 印刷工程の順序:複数色(多色)の印刷、あるいは上の付帯的な工程が生じる場合、最終仕上がりとして外観・機能的に適切で無駄のない印刷順序を組み立てます。
  • 印刷以外の工程組み込み:外形加工や両面テープの貼合など、銘板製作などで多用される工程や、部分塗装、UV貼り合わせ、ヘアライン・バイブレーション加工など、意匠・昨日上必要となるプロセスを、各工程との整合性に配慮し組み込みます。
  • 材料選定:必要に応じて、各部の材料の選定・提案などもこの段階で行います。

試作品と量産品では上の要素の判断が異なる場合があります。特に量産品は、単なる机上的なプランにならないよう、運用可能なプロセスとなるよう配慮・検証なども行った上でプロセス設計を行います。

というわけで、「版下」はこのプロセス設計に含まれる、多くの要素・事項に従って製作されたもの というわけです。

版下作成に必要な情報・資料は?

印刷をご依頼される場合に、版下製作上必要となるもの、それは一言でいえば「製品を具現化するための情報・資料の全て」です(…なんとなく冷ややかな視線を感じます)。つまり「製品として最終的に、どのように見せたい/見えれば良いのか?(どのような機能が満たされれば良いのか?)」ということ(仕様要求)を実現するための情報・資料なのですが、そこには「どのような物(形・材料)に印刷するのか?」ということと「(そこに)どのような印刷をすれば良いのか?(具体的な図柄・配置・色・機能・その他)」とこの二つの内容を検討、あるいは把握できる内容を含むことが必要です。順を追って説明します。が、その前に弊社の印刷業務のタイプは、

  • 【A】印刷のみ:お客様で調達、あるいは加工された製品・部品の支給を受け、これに印刷し、納品するタイプ
  • 【B】印刷+加工:材料調達から印刷以外の加工・組み立てまで弊社で請け負い、半製品として納品するタイプ

の二つに分かれ、伝えていただく情報・資料は共通する部分もありますが、少し異なる点があることを前提としてお話を進めさせていただきます。

どのような物に印刷するのか?

  • :製品の形状・寸法です。Aタイプ(印刷のみ)では印刷面だけでなく、ご支給される製品全体の形状・寸法をお知らせください。製品形状の情報は印刷治具14・設備のキャパ・シルク印刷であれば特枠15の要不要などの検討・判断に重要です。Bタイプ(印刷+加工)では印刷の入る部位以外の加工パーツがあれば(例えば貼付する両面テープ等)その形状・寸法についても指定願います。
  • 材質:シルク・パッドのインクは印刷される材質に対して、適切なインクタイプが用意されています。適切ではないインクで印刷を行うと、剥がれてしまったり、狙う仕上がりにならなかったり、最悪その製品を壊してしまったりもします。インクジェットでもプライマーの要不要を検討する上で材質の情報が必要です。
  • 表面処理の有無:製品に塗装やメッキなどの表面処理がされている場合、上の材質と同様に、その表面処理に対する適切なインクタイプ16を選定する必要があります。
  • 印刷面の色・状態:例えば製品の色が黒などの暗色の時、この上に直接明るい色・鮮やかな色の印刷を行おうとすると、インクの隠蔽性が完全でないために下地(製品)の暗色に発色性が奪われ、暗くくすんでしまいます。この現象を軽減するために、白色等を下地として印刷し、その上に色を重ねる等の工程アレンジを検討します。印刷面の粗面性(ざらざら具合)も、パターンの再現性に影響するため17必要な情報となります。
  • 生産数量:物の自体のことではなくて、一見版下製作とも関係がなさそうですが、そんなことはありません。生産数量が多い製品は、生産コストを抑えるために多面付けを行いますが、そのためのレイアウト、配置は版下製作作業で行います。多面付けで生産することにより、生産効率は上がりますが、使用する版・抜型・治具等の用品が大型化するため18 初期費用がアップします。見積もり依頼などで条件付けらる数量だけでなく、総生産数・製品ライフ等の情報を頂けると、製品生産の総コストでのバランスに配慮したコスト提案を行えます。

どのような印刷をするのか?

文字や記号、図の形は?位置は?:いわゆるパターンの内容の情報です。製品形状のどの位置に、どのようなサイズで、何色で印刷するのか?という情報です。

  • パターンの内容・配置:配置するパターンの位置・サイズの寸法。文字列であれば、文字の内容・書体(ウェイトやスタイルなどもあれば)など。罫線であれば線の太さ(線幅)など。
  • 付帯資料・データ:ロゴや記号、書体、イラスト・写真など部分的に資料(データ)を参照する内容であればその資料・データの指示(どの資料をどの様に—-縮尺など–––扱えば良いか等)と、その資料・データ。
  • :まずパターンの各所の色の指定。個々の色(色味)については、完成イメージの色と印刷後の色との齟齬が無いように、できるだけ具体的な色の指定を行なってください。DICやPANTONE、日本塗料協会のカラーブック(色見本帳)での指定19、あるいは現品の色見本チップ・プレートなど、お客さま・弊社とで具体的な共通認識を持つことができるものが理想です20。普段あまり指定はないのですが、塗膜仕上がりの要素として印刷面の艶度などご指定いただくこともあります。イラスト・写真などはデータだけでは(もちろんアナログ原稿は別です)望まれる仕上がりの色が判断できません。お客さまで色稿された出力原稿をご支給いただくか、製作に色校正を含め進めることになります。
  • 機能:(少し特殊な要素ですが)機能性要素についてはその機能と必要な基準・規定資料、あるいは目安となるサンプル等をお願いします。ご用意が難しい場合は、打ち合わせや試作等での擦り合わせを行います。
  • その他:その他要求事項がある場合は、その要求事項の規定条件と可能であれば要求の背景として、製品の用途・使用環境(「屋外で使用」「高温・多湿環境下で使用」「医療機器向けなので耐アルコール性必須」etc.)などお伝えください。

具体的な資料は?

資料については、資料の呼び名はまちまちであっても、要は上の情報が記述されているものであれば問題ないです。上で分けて説明している情報を、一つの資料にまとめていただいてももちろん構いません。通常は以下のものが挙げられます;

  • 「どんな物」に対する資料は、製品・部品図(加工図、成形図、表面処理図(塗装図等)、組立図などがあります。紙面で頂いても良いですが、データがある場合は.pdf、2D-CADの汎用形式(.dxf、.dwg)を、形状が複雑であれば3Dデータ(.stp、.igs)をお願いします。
  • 「どのような印刷」に対する資料は、印刷図、版下図(書体・記号図)、色見本、印刷見本などがあります。また近年はお客さま側で製作された「版下データ」をご支給いただくケースが多くなりました(こちらのデータ形式の詳細は後述します)。他に、イメージ図や現物写真など資料として考えられます。

資料は全部必要か?ない時は?

いかがでしょうか。「依頼前にこんなに資料を用意しないといけないの?」「お客様からの突然の依頼で、必要と言われる資料が揃わない」「依頼したいことが、どうもこれらに当てはまらない…」など、思われたかもしれません。

一つ一つの項目を数えれば、確かに多くの情報要素があります。ですが、いくつかの要素は一つの資料(図面・サンプル品等)にまとまって含まれていたり、製品や印刷条件によっても必要な要素は変わりますので、常に全てが必要というわけではありません。要点としては「どんな物」「どんな印刷」について具体的にイメージ・理解できる、という内容であれば問題ないのです。

しかしながら、それでも案件発生は様々な背景もあり、また開発・設計の時期・タイミングによっては全てご用意されるのは難しい状況もあるかと思います。そんな時はどうしたら良いか?一言でいえば「なければ無いでなんとかしましょう。」ということになります。いくつかシチュエーションを例として挙げます;

  • 製品が古く版が無い(壊れてしまった)。データ類も無いが再生産したい:引き継ぎ案件などでままあるシチュエーションです。版下データが無く(版下は当時の印刷・版下・製版業者で作成し、当時の業者と関係が切れている等の事情)、また古い製品などは印刷図も簡易な内容となっていることが多く、図面の情報からは再現できない、ということがあります。とりあえず印刷された製品サンプルがあれば、実測を元に(文字などは書体の特定など行い)版下を起工します。製品の寸法図があれば、製品写真からでも可能な場合もあります。「製品も写真も無い」という場合、必要な文字・グラフィック要素をお伝えいただければ、それを元にデザインし、版下作成を行います。
  • 具体的な色の指定ができない(シルク印刷):色々なシチュエーションが想定できますが(製品上のグラフィックを構成している印刷部の一部として)フラットな単色の場合は、お打ち合わせなどでカラーブックを元に色を特定していく、という対応を取らせていただくことが多いでしょうか。単色ではなく視点によって変わる、ムラや質感のニュアンスが含まれるなどの複雑な発色をする色(図面化の際、色指定ができない)というような場合は、現物の色サンプルをご支給いただくのがベストです。いずれにせよベストは現物のサンプルなのですが、物理媒体がなくデータしかない場合は、カラーブックや試作サンプル等で詰めていくような方法になるかと思います。
  • 具体的な色の指定ができない(インクジェット):色が複雑フルカラーのイラストや写真などは、色校正で詰める、あるいは基底となる色調だけ具体的に指定(特定)いただき、あとはそのバランスで、ということも考えられます。
  • 作りたいものはあるけど、具体的な構造、材料、印刷方法含め未定:こちらも多様なケースが想定されます。最終的な理想形が(ある程度)明確であればそれを頼りに、あるいは「方向性はまだ漠然としているが、まずは複数の水準でバリエーションを作りたい」であれば、現時点で意図される現状のイメージを頼りに、ヒアリング、お打ち合わせを重ねて、何が必要か?どこを評価軸とするか?など要素を具体化していきます。
冒頭の図の左側「コト段階」の詳細図です。お客様で製品イメージの具体性・資料データの完成度の縮小がある場合、それをカバーする形で弊社がどう対応するか?を記しています。
“コト段階 ” の詳細図

上の図は冒頭の図の “コト段階” に「情報・資料がない時」の要素を加えたものです。お客様での製品イメージから資料・データの作成、および弊社でのプロセス設計から版下製作の流れは変わりませんが、その領域が変化するイメージです。領域はお客様の製品イメージの具体性、負担度、資料・データの完成度の大小の加減であり、弊社の方はこれに対応した関与度、仕事量の増減という図式になっています。

“製品イメージの段階” では、全て固まっていなくても(なので図面等の資料が作られる前の段階となりますが)印刷の仕様や方向性など、お客様で考えられているコンセプト等を手掛かりに、デザイン・プロセスの提案(この中で技術的な制約・懸念事項、という情報もお伝えすることがあります)し、そしてまたお客様の方で製品仕様の完成度を上げていく、というようなサイクルを想定しています。

“資料・データの作成の段階” では現状ある資料レベルで可能な範囲で一旦弊社でデータを作成し、お客さまでの校正結果をまた戻していただく、というようなサイクルを描いています。またこれは資料が無い場合に限りませんが、ご提示いただいた資料の指示内容について、プロセス設計の視点から懸念や改善点があればフィードバックさせていただきます。

多様なケースがありつつも、一つ言えること

版下を作る(作れる)とは、プロセスの想定・設定(プロセス設計)が先にあり、プロセスの想定は基本的にはお客様からの指示を元に弊社で組み立てるものですが、同時にお客様と協調しながら行う段階でもあります。従って欠けた情報があるから「出来ない」ということではなく「なければ無いでなんとかできる」手続き段階です。視点を転じれば、プロセスの設定精度が版下作成の精度につながり、ひいては印刷・製品の品質の担保となります。従って、この段階はしっかりとお客様と協調しながら進めていくことが大切だと考えます。

データの仕様について

最後に弊社で扱う印刷方式別に各データの仕様について整理しておきます。少し冗長的になってしまうのですが、シルク・パッド印刷とインクジェットでは版下の構造が異なるため、分けて解説します。

尚、先述の通り、シルク印刷、パッド印刷を前提とした工業製品印刷の業界でも、近年はお客様で作られた版下データをいただくことが主流になってきました。ですが版下データとしてご支給されるものは印刷の条件・工程を意識しされない、仕上がり段階の外観として見える内容、いわゆるデザインデータに近いものであることが多いようです21。冒頭に説明しましたように厳密な意味で版下データとデザインデータは異なります。以下の説明では、このような状況を踏まえ、版下製作のための資料としての「版下データ」について解説するものとします。

シルクスクリーン印刷(シルク印刷・スクリーン印刷)

シルク印刷の版はインクが「出る領域(パターン)」/「出ない領域(マスク)」の2つの要素構造になっており、最終的な版下データも2値(ON/OFF、1/0、外観的にはブラックとホワイトのみ)のデータとする必要があります。従ってフルカラーやグレースケールのビットマップデータは基本的に使用出来ません。

現状では解像度に依存しない座標情報で作られたベクター形式で、ファイルフォーマットとしては、Adobe Illustrator の.ai 形式が主流となっています。その他代表的な形式では.pdf、.eps などが挙げられます。ai、.pdf、.eps もファイル仕様としてはベクター、ビットマップ両方を含めることができるので、その点についても下記に記載します。

.ai、.pdf、.eps

  • 版下データとして:2値(K=100 / K=0 )データ。カラーモードはCMYKでお願いします(RGBは不可。オブジェクトレベルではグレースケールでも可)。複数の色での印刷を想定される場合は、各色を位置関係が明確になるようにトンボなどの基準点となるオブジェクトを配置してください。製品形状のデータ、各色のデータをレイヤーで分けていただけると助かります。
  • デザインデータとして:CMYKでのカラー構成。RGBは不可。このデータから版下を起工する場合は、ベジェ(ベクター)データで構成してください。ビットマップからはトレース作業が必要になります。
  • テキストデータ:アウトライン化してください。
  • 配置されるビットマップデータ:ビットマップのファイル形式は、ご使用されるドローソフトで扱えるものであれば問題ありません。ただしグレースケール、CMYK/RGBでのビットマップデータは不可です(2値データのみ使用可)。ロゴデータなどでベクター形式が入手できずやむを得ない場合は、できるだけ高解像度(画像サイズが50×50mm程度の画像であれば最低300dpi以上、グラフィックの複雑さによっては900〜1200dpiは必要)のデータをご用意ください。リンクされたオブジェクトとして配置されている場合は、データご支給の際に、必ずそのリンクされたファイルも一緒にご支給願います。

また2D-CADの汎用フォーマットである.dxf、.dwg も親和性のあるデータとして使われています。版下データとしてそのまま使用するのは難しいのですが、製品やグラフィックの形状などのデータを利用し、これをベースに実際の版下要素を加えていくという使い方が多いです22

.dxf / .dwg

  • 版下データとして/デザインデータとして:いずれもそのままCADデータを版下データ・デザインデータとして使用することは出来ません。例えばCADデータをイラストレーターに読み込むと、パスが分割されたり、曲線が線分化されたりすることで、形状が崩れたり塗りの部分が不明になる現象が生じることがあります。これはCADソフトの種類や書き出し時の設定によって解消されることがありますが、根本的にはCADソフトのデータの扱い自体がイラストレーター等のドローソフトと異なることに起因します23
  • テキストデータ:アウトライン(図形)化してください”*D”。図面の寸法値や脚注事項などの文字(印刷パターン以外のテキスト)はそのままで結構です。
  • その他:等倍以外のデータスケールで作成されたデータは、その尺度をご連絡ください。データ内に基準として縮尺が判断できる(簡易な定規の様な)ものを入れていただくと助かります。一部のCADソフトウェアはai、.pdf、.eps で書き出すことができます。ただしその際は、データスケール、オブジェクトの曲線、細部の状態に問題がないか?(不自然に凸凹している、直線で構成されている等)、また塗りデータに加えて線データが入って(本来より太い・大きい状態になって)しまっていないか、ご確認ください。

インクジェット

インクジェットはシルク印刷やパッド印刷と異なり、フルカラー(CMYK)での印刷方式です。ビットマップのカラーデータも扱われます。最終的な版下データとしては、通常はカラー、ホワイトの2つ、そのほかに印刷条件やデザインによってはプライマー、クリアを加えた最大4つの版下が作成され、.eps のファイル形式で書き出します。インクジェットのカラーのインクは(オフセット印刷に似て)下地の色が透ける程度に透明です。ですので印刷される材料の色が 白以外の場合は通常ホワイトの印刷が必要になります(オフセット印刷でのオペークの様な位置付け)。ホワイトは、白<—>黒のグレー階調のデータ(データのK=100がホワイト100%出力)を用いることで白の濃淡(グラデーション)なども表現できます。

.ai、.pdf、.eps

  • 版下データとして:フルカラーが扱えます。カラーモードはCMYKでお願いします(RGBは不可)。ホワイトやプライマー、クリアのデータをお客様で作られる場合は、それぞれ専用のレイヤーに分けて作成してください。
  • デザインデータとして:CMYKカラーモード。RGBは不可24です。
  • テキストデータ:アウトライン化してください。
  • 配置するビットマップデータ.ai、.pdf、.eps 内に配置可能な形式であれば、どのような形式のデータでも印刷は可能です。必要な解像度は求められる出力品質によりますが、600〜1200dpiを目安にご用意ください。リンクされたオブジェクトとして配置されている場合は、データご支給の際に必ず、そのリンクされたファイルも一緒にご支給願います。

.jpg、.png、.psd、.tif 等ビットマップデータ

    • 版下データとして:使用することは可能です。基本的に出力品質は解像度に依存部分が大きいので、大きなサイズで出力されたい場合は、ドローソフト(あるいはレイアウトソフト等)に必要部分だけビットマップデータを配置する方が、データサイズ的には良いです(目安の解像度は先述の通り)。また風景写真のように元々が1枚のビットマップデータである場合は別ですが、ドローソフトで作成したイラストを1枚(1レイヤー)のビットマップの画像データに書き出して版下データとするようなことは色調整時のデータの可塑性の点であまりおすすめ出来ません25)。作成されたデータ構成が複雑で、出力時のトラブルが心配な場合は、最終外観確認のため.png 等で書き出したファイルと、元のファイルと分けてご用意いただき、ご提示ください。
    • デザインデータとして:使用可能です。先の最終外観としても利用できます。ただし(やはり)カラーモードはCMYKとして製作・書き出し願います。

まとめ

以上、「版下作成に必要なもの」として解説いたしました。内容的にはむしろ「印刷をご依頼いただく際のやり取り解説」の感じになり、版下製作そのものからは大分脱線が多くなってしまいました。“コト段階” 、 “モノ段階” 等、オリジナルな概念を持ち出している分、伝わりずらかったかもしれません。

(すでに長い記事になりましたが…)この点に一つ付け加えるならば、“コト段階” での作業事項は一定の可塑性があり変更や修正は柔軟にできますが、“モノ段階” に入り、進むにつれ物事に可塑性・可逆性失われていきます(一旦できてしまった版は修正が難しい、というように)。

ですので、“コト段階” でプロセス、工程、運用管理までしっかり検討を行い、問題点・懸念点はできるだけこの段階で洗い出し、解決しておくことが重要だと考えます。また版下の話から離れてしまいそうですが、実は版下には直接・間接的にこれらの運用懸念解消の仕組みが盛り込まれています26

記事内容についてのご質問、ご指摘がございましたらお問い合わせフォームよりご連絡いただけましたら幸いです。

註記一覧

  1.  「印刷」を広く捉えた時にその手法によってはそうとも言い切れない?が、少なくとも、工業製品印刷におけるシルク・パッド・インクジェットにおいては版下は必須
  2.  単純に情報と物質と分けるのは適切ではないと承知している(個々の段階においては—例えばプラン・設計段階などで)モデルや色見本など物理的なものを作ることがある)。ここでは「"印刷"のプロセス全体」の文脈の中で情報設計段階 → 具現化段階というような区分ができ、版下はその変換位置にあるという視点に基づいている
  3.  「平面上」は一つの印刷工程で展開された版下の前提である。多色刷り=一つの印刷物に複数の工程=複数の版下で構成される場合、3次元的なイメージを抱くことができるが、こちらは2Dが並行しただけとも言え、これはまた別種の議論になってしまいそうなので、ここでは深追いしない...。
  4.  印刷業界で「パターン」とつく用語は多数あるので注意が必要。ここでは単に印刷される図柄のことを言っている。
  5.  「≒(おおむね同じ)」としたのは、やはり特殊印刷では後述のホワイト、プライマーのような、またそれ以外の付帯的な印刷工程を行うことがあるため。
  6.  もちろん2つ以外にも色々ある。が、これは部分・個別のケースに対処するためと言えるのでこの記事では詳しくは述べない。ざっと挙げると;

    • 多面取り(規定の(任意の)サイズの基材に、同じパターンを並べて配置し、1度の印刷で複数個の製品を効率よく印刷する方式)で印刷する場合のレイアウト作りや配置の作業
    • 用いる印刷方式でイメージ再現の限界を超える・支障が出そうな箇所のパターンの修正
    • 文字組や字面が悪いと判断できる箇所の修正(長体、平体、文字詰めやセンタリングのバランス・修正)
    • ナンバリングやコード(バーコード、QRコードなど)の作成や配置
    • シルクスクリーンでのグラデーションや4色プロセスの指定があった場合の網掛け
    • (シルク、パッド印刷の場合)支給されたデザインデータがビットマップでこれを2値データに変換、あるいはベジェデータに変換・トレース
    • インクジェットでは、シルクなどでインク調色に当たる作業も版下データ上で行うので、これも版下作業の領域か?

    などある。

  7.  意図としては、1. 外観となる特定の色(対象色)の発色や効果を強めるために行われる表現上の理由、あるいは 2. 塗膜の耐久性や隠蔽性の向上、ピンホール防止など品質上の理由で、追加の印刷工程を行うことが多い。
  8.  印刷されるもの。印刷される材料であったり、製品(部品)のこと。
  9.  色分版というとオフセット印刷などの工程としてカラーからCMYKなどに分解する作業を指すイメージがあるが、インクジェットの場合はプリンター側がこの作業を行うので人間がこの意味での色分版を行うことは通常ない。
  10. 「部品の形状に沿った線を版下に入れてしまうと、印刷の時にその線も一緒に印刷されてしまわないの?」との疑問が湧いた方は素晴らしい慧眼をお持ちである。本文では冗長的になるので説明を省いたが、目止め処理と言って、製版の後、透明なレジスト(目止め剤)をトンボへ塗ってインクが出ないようにしている。
  11.  別なシチュエーションとして、あらかじめ加工されたパネル製品などの全面にベタ印刷を行う場合に、そのパネルの寸法(厳密には加工上の公差寸法)に対してベタパターンを太らせたり、ということも行う。こちらの記事でも印刷順序の説明の中でトラッピングに触れています。
  12.  一般的な製造業の文脈で「プロセス設計(Process Design)」と呼んでよいものかは、本来微妙。印刷工程は製品製造プロセスの一部であるので、厳密には工程設計(Operation Planning)に近い位置付けだろう。ただし弊社では複数の印刷手法や、印刷以外の内外の加工まで含め、工程の順番、工程間の整合性(品質・効率・経済性)全体を通し検討し構築する作業になるので、便宜的ではあるが「プロセス設計」と呼ぶ。
  13.  工業製品印刷の多くのケースではお客様側で想定する印刷方式の指定があり(図面に記載があることが多い)、基本的にこれに従います。が、お客様の意図に対して別な印刷方式が良いと思われる場合にはこれを提案など行います。
  14.  印刷時に製品を一定の位置に設置するための台。製品形状・印刷条件に合わせ多様な治具を製作している。
  15.  シルク印刷などで印刷面の付近に立ち上がりのある場合などに対し印刷するための特殊な形状枠。詳しくはこちらの記事にて。
  16.  インクタイプの選定は端的には「その素材にインクが密着する」という視点になるが、これにはインクの素性として密着する+そのインクを成膜する条件をクリアできること、という二つの要素がある。成膜(インクを固める)する条件には炉に投入して150℃での高温で一定時間焼き付ける、というものもあり、その意味でも製品の素材・表面処理の種類(色も)重要な情報である
  17.  版下レベルでも細かいパターンは粗面上で崩れやすいので、調整対象となることがある。またシルクでは版のメッシュ選定上、重要な要素である。
  18.  製品の形状や材料の定尺サイズ、および印刷・加工可能な最大広さなどのハード面と、1回の生産ロットでの数量、総生産数等の生産計画面、歩留性・品質要求などの運用面の条件で勘案し、面付け数=大型化レベルが決定される
  19.  カラーブック(色見本帳)は色々な団体から多く出版されており、弊社で全てを所持することはできないのが実情です。弊社ではDIC、PANTONE SOLID COLOR、日本塗料工業会等の色見本帳は常備しております。これ以外のカラーブックの色指定での可否については予めお伝えいただけると助かります。弊社で所有なく入手困難な場合は、お客様よりご支給をお願いすることがあります。
  20.  とはいうものの、カラーブックの印刷方式(コート紙にオフセット等。PANTONEは同じ色をソリッドカラー(特色)とCMYKカラーと個別のカラーブックを出しており、印刷方式にマッチしない指定をいただくこともある)と実際の製品への印刷方式(/印刷仕様。例えば透明アクリル板にシルクで裏刷り)とが異なることで、色の再現については結局主観的な判断になることが多い。この点を解消するため、実際の印刷仕様で作成した色見本を事前に作成し、両社で承認という手続きをとることもある(いわゆる色校正、限度見本の作成)。また最近はRGBでの指定をいただき、(先方もやむを得ず、この指定をされているような時)対応に一考を迫られることがある。色の問題は多岐に渡るので、機会を設け別に解説したい。
  21.  簡単に言えばいわゆる「完全版下」との差、ということになるだろう。実際には(外観のデザインデータ<—>(完全)版下データの間の)幅があるが、そのまま版下として使用できることはあまり無い(中にはしっかり印刷工程を意識されて作られているお客様もいらっしゃいます)。しかしもちろんこのことは、製品としては普段普通に目にするものの、ニッチな印刷手法の工程なので、単色の単純な内容以外はともかく、多層構成の印刷の版下となれば当然だと考える(し、そのためにプロがいる)。
  22.  CADソフトウェアは多くのメーカーがリリースしており、個別のソフトウェアの特性や、設定、互換性などに起因する現象が多くある。結果、同じ.dxf、.dwg というファイル形式であっても、ほとんどそのまま版下要素として利用できるものから、利用出来ないものまで、データ内容・品質に幅がある事態になっている。
  23.  少し踏み込んで調べてみるとCADソフトは「形状」を構成する「線分」「円弧」「スプライン」などは個別の要素として管理され、一方イラストレーターなどのドローソフトは、形状を構成する線や曲線はまとめて一つのオブジェクト(ベジェ曲線データ)として扱うため、この様なデータ互換上の問題が生じるらしい。
  24.  なぜ不可なのか?CMYKよりもRGBの方が色空間の領域が広く(=広い範囲の色表現ができる)、印刷はCMYKで行われるのでRGBのデータにCMYKの色空間を超えた色がある場合、適切に表現できないから。
  25.  1レイヤーのみの画像データを版下ータとして使用する場合、いくつか支障が生じることがあります。例えばキャラクターなどの人物の部分のみ印刷したいというとき、不要な背景部分が(“透明“でなく)“白“の設定であると人物部分の境界線が取り出しずらく、このことでホワイトやプライマーの版下データの作成の際に作業の手間がかかります。また、プリントの色調調整の際、調整したい部分の選択が、人の認知的(例えば人物の「肌」の色に少し暖かみを加えたい、とか、「コスチューム」の部分だけ彩度を上げたい、というような人間が「そこ」と指せる部分(?)を認知的と言ってます)な選択ができず、カラーのデータ値が基準となってしまうことで面倒な処理が生じる場合があります。
  26.  もちろん運用上の懸念事項の全てを版下に盛り込める、という意味ではない。トンボの付け方、トラップの量、他工程との連携、注意事項・コメント等を直接版に入れ込むなど。これらは品質の安定性、オペレーターの作業性向上や注意喚起につながる。

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