版下データについて

工業製品印刷の業界ではまだまだシルクスクリーン、パッドが主流な印刷方式ですが、少量他多品種への生産移行の流れからインクジェットでの印刷要望も増えています。版下のデータという視点ではシルクスクリーン・パッド印刷とインクジェットでは印刷方式の原理の違いから扱える版下データの範囲が異なり、データ内容で使える・使えないの判断もケースバイケースを含め異なります。ですので、明確な線引きが難しかったりするのですが、弊社で扱っている各印刷手法について、版下データとして要求される事項・主なファイル形式について、これら印刷手法の印刷原理と特徴と絡めて、説明・整理を試みます。

画像データが版下データとなるまで(文字Gをスキャン〜アウトライン〜トレース〜ベタ抜き〜オフセット〜押さえ、のモデル)

スムーズなデータ入稿のために

近年お客様より「版下データ1」をご支給いただくことは標準的となりました。ですが、データをいただいてから製版(あるいは印刷開始)を行う———いわゆる「完全版下」となるまでには更なるデータ加工の作業が介在しています。そしてここでのデータ作業量は、ご支給いただく版下データの状態によって幅が生じます。

このご支給いただく版下データから完全版下までの作業が生じる原因、印刷を依頼される方としては一体何が足りなかったのか?(言い換えると「なぜ「版下データ」を渡したはずなのに版下代が請求されてしまうのか?」)という疑問は当然お客さまの方で持たれているだろうな、と思いながらも見積もり書に「版下代」の金額を書き込んでいるのですが、このギャップについては印刷業者の専門性2の範疇での致し方ない部分もあれば、印刷手法の簡単な原理と、(その原理ゆえに)データ的にどのような仕様が望ましいか?というような、ちょっとした知識をお持ちであれば回避できる手間、というものもあるように感じます。ですのでこのページではそのあたりのところを少し掘り下げつつ、ご説明できればと思います。

版下データとデザインデータ?

さて突然ですが、これからお話しを進めるにあたり、入稿いただくデータ原稿の状態や文脈によって「版下データ」と「デザインデータ」の二つの概念に分けて説明したいと考えます。

「版下データ」と「デザインデータ」の定義範囲を図式化。下から上にいくにしたがってユルいデータ状態から完全版下に整っていく。 図では大別4段階を示す。下から、データ形式(ベクター/ラスター)→ファイル形式(カラーモード、深度/解像度)-→データ状態(パターンの整備、トンボの配置、ラスター/ベクター変換)、)→プロセス/工程条件(・(印刷以外の)前後工程等に関わる処理、付帯的な印刷工程、多色間の処理)の4段階。 版下データとデザインデータは中間の「データ状態」の層で交わりつつ、そこから下がデザインデータの領域、中間から上が版下データの領域、としている。
版下データ・デザインデータの概念図
  • 版下データ:印刷原理および印刷工程・プロセスに則した内容のもの。「版(製版)」を意識されて作られた内容・仕様のデータ。
  • デザインデータ:印刷原理は意識するが、印刷工程・プロセスには則さず、印刷結果の「外観」を示すことを主旨として作られたデータ。(単なる外観イメージ画像ではなく、このデータから版下を作る前提のもの)。

と、それぞれを定義します。これらは段階的・分かち難い要素もあり、あくまで便宜的なものです。

このように分けるのは、結局のところ究極的には(手間や時間を考えなければ)どの様な状態のデータからでも版下は作れてしまう、という事が背景にあります。ですので、その説明にあたっては一定の条件・意図(目的)に絞った上でないと難しいと考えました。とはいえ現実に普段の業務では色々な状態のデータで入稿いただいており、実際にそこから印刷物の製作していることを考えると、「版下データ」の視点だけに絞ってしまうと限定的になりすぎます3。よって、版下データとデザインデータを分けた上で、できるだけ幅広いデータを受け入れつつ現実的な業務対応の範囲となることを前提に説明を進めたいと思います。

スクリーン印刷のデータ

スクリーン印刷(シルク印刷/シルクスクリーン印刷)は孔版———その名の通り版に開いた穴からインクを通して印刷する方法———の一種です。

スクリーンの版は、版枠にメッシュ(細かい網)状のスクリーンを張ったもので、そのスクリーン面はインクが「出る領域(パターン)」/「出ない領域(マスク)」の2つの領域で構成されています。従って最終的な版下データは2値(ブラック&ホワイト )のデータです。複数の色を印刷するには、インク自体をその色に調色した上で、その色を出したいパターンの版(基本的に1色1版)で印刷します。ですので、これ以外のフルカラー、グレースケールのデータは直接使用することができません。グラデーションのようなパターンを印刷する場合は細かく黒/白のドットや線のサイズや密度を変えて表現します。

スクリーン印刷は1色1版が基本の図。ネコ(?)のイラストを4色で印刷する場合、4版を使います。版のインクの出る形状のエリアはパターンと呼びます。
シルクスクリーンは1色につき1版(パターン)

スクリーン印刷に求められるデータ仕様は?

データ形式は解像度に依存しない座標情報で構成されるベクター形式、ファイル形式ではAI(Adobe Illustrator Format [.ai]) が事実上主流となっています。その他代表的な形式では、PDF(Portable Document Format [.pdf])、EPS(Encapsulated PostScript [.eps])などが挙げられます。

データ形式がベクターではなくPNG(Portable Network Graphics [.png]) JPG(Joint Photographic Experts Group [.jpg / .jpeg]) TIF(Tag Image File Format [.tif / .tiff])PS(Adobe Photoshop Format [.ps])のようなラスター(ビットマップ)形式でも、上のようなスクリーン印刷の条件に合った仕様であれば版下データとして使用できますが、パターン再現性に応じた解像度が必要となり、完全版下に向けた処理でのデータ可塑性の点でベクターデータよりも親和性が低く、特殊な効果を意図する場合以外は推奨できません。AI、PDF、EPSもファイルの中にラスターデータを含めることができますが同じことが言えます。なおAI内に外部ファイルをリンクされたオブジェクト(画像)として配置されている場合は、データご支給の際に必ずそのリンクされた画像のファイルも一緒にご支給願います。

テキストデータはアウトライン化をしてください。PDFでフォント情報が埋め込みされているものであれば、AI上で編集する際に復元することができますが、不測の事態を避けるためデザイン上重要な文字についてはあらかじめアウトライン化をお願いします。

版下データ

基本的にベクターデータで構成されたAI、EPS、PDF のファイル形式を推奨します。ドキュメントのカラーモードをCMYKまたはグレースケールとした上で、パターンのデータはK=100%(黒)と K=0(白)のデータで構成してください。(RGBは不可。またRGBからCMYKに変更された場合、外観では黒に見えてもK=100%になりません4のでご注意願います。

多色(複数の色)での印刷を指定される場合は、各色のパターンデータの印刷位置が明確になるようにトンボ、製品形状(印刷面)のアウトラインなど、位置基準となるオブジェクトを配置してください。パターンのデータとトンボ・製品形状のデータとは、明確に判別できるようにレイヤー、または色5で分けていただけると助かります。

ラスターデータで版下(パターン)を作る際のグレースケールと2値画像との比較図。 スクリーン・パッドの版はインクが「出る」「出ない」の2つの振る舞いしかしないので、グレースケールの黒、白の間の諧調はインクが出るか出ないか「わからない」部分になってしまう。(のでNG) よって2値画像にする必要があるが、低解像度であるとエッジにシャギー・階段状の凹凸が目立つので、一定の解像度600ppi~1200ppiは必要。と言う話の図。2値画像はPhotoshopであるとイメージ>モード>での「モノクロ2階調」、GIMPであると画像>モード>「インデックス」で変換できる。ちなみにPhotoshopの「インデックスカラー」とGIMPの「インデックス」は別物。
スクリーン・パッドの版下でのラスターデータの扱い

ラスターデータですが、先述の通りデータの可塑性や重さの点などの理由から推奨はできませんが、AI、PDF、EPS へは内部にラスター(ビットマップ)データを配置することができ、また単体のラスターファイル(PNG、JPG、TIF、PS等)も上記の条件(ブラック&ホワイトの2値データ)を満たせば版下データとして扱うことは可能です。解像度はパターンの細密具合によりますが、900dpi〜1200dpi(8pt以下の細かい文字などは2400dpi〜、ラフなものでの最低ラインは600dpiあたり?)を目安としてください。パターンの細密具体に対して十分な解像度でない場合、あるいは解像度が高くてもパターンのエッジの状態が粗いような場合はベクターデータに変換(自動あるいはマニュアルでのトレース作業)を行います。

デザインデータ

多色印刷の外観を表すデータの場合、ドキュメントのカラーモードはCMYKが推奨です。RGBは基本的に不可なのですが、工業製品印刷では印刷色について図面等でカラーブックの色番号6などを指定をされることが多く、その場合であればCMYK / RGB実質どちらでも問題ありません。ただその場合でも、明らかにCMYKの色空間から外れる色(R:255 / G:0 / B:0など)や、印刷後の外観とは全く異なる色などは、版下作業の前段階のプロセス設計7で誤解を招く恐れがあるので避けていただければと思います。

このデータから版下の起工を行う前提であれば、パターンのデータはベクターデータで作成してください。ラスターデータの場合、トレース作業でベクターデータに作り直さなければならない可能性が高く、状態により多くの時間・作業が必要になります。

DXF / DWGについて

2D-CADの汎用フォーマットである、DXF(Drawing Exchange Format [.dxf])、DWG(Drawing (AutoCAD) [.dwg])もベクター形式のデータ種類であり、工業製品印刷では親和性のあるデータとして使われています。版下データとしてそのまま使用するのではなく、パターンや製品形状などのデータソースとしてIllustratorに読み込み、これをベースに版下製作を進める使い方が多いです。

版下データとして/デザインデータとして

ベクターデータではありますが、いずれもそのままCADデータを版下データ・デザインデータとして使用することは出来ません。例えば正方形で塗りのイメージ(ハッチング)のCADデータをイラストレーターに読み込むと、ハッチを含む形状線は全て1づつに分割された線分(パス)は状態になります。この状態から不要なハッチの線を取り除き、正方形の4辺を繋ぎ直して閉じたパスを作り、塗り指定するという作業が発生します(単純な正方形ならそれほどの手間ではないですが…)。また中には曲線が直線の線分に置き換わっている、細部の形状が崩れているなどの現象が生じることがあります8。これはCADソフトの種類や書き出し時の設定によって解消されることがありますが、根本的にCADソフトのデータの扱い自体がイラストレーター等のドローソフトと異なることに起因するためであり9、ある程度は致し方ない部分だと思います。

印刷内容となるテキストデータはアウトライン(図形)化してください。図面の寸法値や脚注事項などの文字(印刷パターン以外のテキスト)はそのままで結構です。

その他

等倍以外のデータスケールで作成されたデータは、その尺度、あるいは本来の寸法をご連絡ください。データ内に基準として縮尺が判断できる(簡易な定規の様な)ものを入れていただくと助かります。一部のCADソフトウェアではAI、PDF、EPSのファイル形式を書き出すことができます。もしIllustratorをお持ちであれば、データスケール、オブジェクトの曲線、細部の状態に問題がないか?(不自然に凸凹している、直線で構成されている等)、また塗りデータに加えて線データが入って(本来より太い・大きい状態になって)しまっていないか、ご確認ください。お持ちでなければ弊社にて確認いたします。

パッド印刷のデータ

パッド印刷(タンポ印刷)は、凹版の間接転写方式での印刷方法です。版はスチール、あるいは感光性樹脂の平滑性のあるプレートで、印刷される部分が凹みで形成されており、その凹み部分に一旦インクを充填し、そこへ柔らかいシリコーンゴムのパッドを押し付けます。するとパッドの表面に凹んだ部分のインクが付き、これを印刷する物へ押し付けインクを転写することで印刷を行います。10

「パッド印刷は球面上にも印刷できます。」の例えとして、ツルツル頭の紳士に「非常呼」+電話マークのパッド印刷をしてみた図
パッド印刷は球面上にも印刷できます。

版はインクが「充填される部分(凹み)」と「充填されない部分(版表面のフラットな面)」の二つの領域で構成されるため、スクリーン印刷と同じように、最終的な版下データは2値(ブラック&ホワイト)のデータになり、印刷色との関係も基本的に1色1版になります。

パッド印刷に求められるデータ仕様は?

印刷の原理は異なりますが、インクの出る/出ないの部分は共通なので、版下データ、デザインデータ共にスクリーン印刷に準じます。余談になりますが、パッド印刷の版では、位置合わせのトンボ線は削除されます(シルクの版と異なり、版が出来たあとにトンボ線を印刷しないようにする処置が出来ないため)。ですが、製品に対してどの位置に印刷するか確認できる情報は、版下製作だけでなく印刷治具製作や品質検査の段階でも必要となりますので、ご支給いただくデータ段階ではトンボ線や製品印刷面のアウトラインなどのデータも含んでいただいた方が良いです。

インクジェットのデータ

インクジェットはシルク印刷やパッド印刷と異なり版というものがありません(無版)。基本的に印刷したい画像などのデジタルデータをコンピュータープログラム(RIP [Raster Image Processor])によって解析し、プリンターはこれらのデータを仲介するプリンター制御アプリケーションに従う形で、インクを出すヘッドと呼ばれる部分の規則的に並んだ微細な穴から、インクが粒子状に吐出されて印刷が行われます。

インクジェットは細かいドット(点描)で表現されます。印刷されたおじさんの虹色のバンダナ部分を拡大すると、C,M,Y,Kの4色のドットで構成されています。
インクジェットの表現原理イメージ

印刷の表現原理は、基本色(標準的には:C [シアン]、M [マゼンタ]、 Y [イエロー]、K [ブラック] の4色11)を色々なバランス(インク粒子の密度とサイズの違いなど)で掛け合わせることでパターン・色再現を行なっており、プリンターのヘッドもこの基本色それぞれに用意されています。元の原稿の画像から基本色への分解などの処理は全てRIPが行いますので、スクリーンやパッドのように、あらかじめ人がインクを混ぜ合わせて調合するような作業はありません。ですが印刷結果の色の再現性が思わしくない時は、人が元のデータ色や、あるいは基本色の吐出バランスを直接調整し、望む色に近づけていきます。

インクジェットのカラーのインクは色のついたガラスのように透明で、白い下地の上に印刷されることで発色しています。ですので正しい色を再現したい場合はカラー層の下地としてホワイトの印刷を行います。例えば印刷される材料の色が白以外の場合、先にホワイトを印刷し、その上にカラーの印刷を行う、といった要領です。

工業製品向けのプリンターは色々な材料への印刷ができるように、カラー・ホワイトのインクが密着しずらい材料に対して密着性を上げる糊のような役目となるプライマーが用意されています。カラー・ホワイトの印刷の前にプライマーを下地として印刷します。

ホワイトもプライマーも12インクの形態として用意されており、カラーと同じように元の画像データに従って印刷されます。ただし、カラーのデータのように、もとの画像から自動的にそれぞれの基本色へ振り分けるようなことはなく、ホワイト・プライマー個別の版下データを予め用意する必要があります。

インクジェットに求められるデータ仕様とは?

ベクター、ラスター両方のデータ形式が扱えます。実際の工業製品の印刷ではAI、PDF、EPSのファイル形式で、主要な部分がベクターデータ、必要に応じてラスターデータも配置されているという内容が多いでしょうか。ベクターデータのみの場合も多いです。AI、PDF、EPSのファイル形式で外部ファイルをリンクされたオブジェクト(画像)として配置されている場合は、リンクされた画像のファイルも一緒にご支給願います。

スクリーン、パッド印刷と同様に、テキストデータはアウトライン化してください。また確実なカラーマッチングを行いたい場合は、各色のカラーブックなどでの色指定、カラーサンプル(色見本、色校正稿)などのご支給をお願いします13

版下データ

カラーのデータは印刷で表現したい色で作成します。先に触れた通り、ベクター系・ラスター系、いずれでのファイル形式でも対応できます。ラスター画像の解像度は 300ppi〜600ppi 程度を目安としてください。72ppiでも1200ppiでも印刷すること自体は可能ですが、画質の劣化や無駄に大きいファイルサイズとなってしまいます。

ベクターとするかラスターとするか?はそのパターンデータの作りやすさ、ファイルのサイズ(データの重さ)が判断基準になると思いますが、出力結果に対する調整を行う際の扱いやすさや、ホワイト、プライマーのデータの作成しやすさなど総合的に考えると、ベクターの方がベターであると思います。

ドキュメントのカラーモードは必ずCMYK14で作成してください。ちなみにカラーも後述のホワイト・プライマーでも版下データ上で白(K=0%)の部分は何も印刷しない部分として解釈されます。透過画像の部分は白背景に重ねた外観と同じ解釈になります。

ホワイト・プライマーの版下データは印刷部分が黒から白のグレー階調のデータ(データのK=100が100%出力)で作成します。グレー階調でデータを作ることで白の濃淡(グラデーション)なども表現できますが、プライマーは外観には現れない機能性の層なので、黒(K=100)など単一の階調で作成することが一般的です。

最終的な版下データとしては、カラー、ホワイト、プライマーそれぞれ個別のファイルに書き出されたEPSファイルを、プリンター制御アプリケーションで読み込み、レイヤー状に組み合わせて印刷を実行します。

デザインデータ

インクジェットではフルカラーのデータが扱えることから、版下データとデザインデータを分けることはあまり意味がないのかもしれません。よって版下データのソース(素材)のデータあたりまで当初の定義を拡大して説明します。想定するのは、いくつかの素材データを頂き、仕上がりイメージに従い組み合わせ、配置して版下データを作成するような場合です。

素材となる個々のデータ、ファイルの仕様は上の版下データで要求される条件に従ってください。しかし例えばドキュメントのカラーモード=CMYKは基本的条件ですが、ご用意が難しい場合はこちらで変換します(ただし、モニターで見る色と印刷された色では異なりますので、本番の印刷前に色校正、試作など行いご確認いただくことをお勧めします)。このように、お客様でご準備できない部分については、可能な限り弊社でサポートいたします。

完成のイメージ図、あるいはレイアウト(配置)指示のデータをご提供願います。レイアウトデータは図面形式でも結構です(必要な寸法、指示が分かる物であればデータ、紙面いずれでも可)。その際、印刷する製品の形状(印刷面の形状)のデータも含むよう願います。なおこれらはDXF、DWG形式のデータでもご支給いただけます。レイアウトの内容に文字の配置が含まれる場合は、そのフォントの指定(フォント名、ウェイト・スタイル15、サイズ、色等)もお願いします。

指示データ(指示書)に基づき弊社で印刷外観(仕上がりイメージ)となるデータを作成していきます。必要に応じて新たにデータを作成、素材のデータを加工など行いながら、配置していきます。ラスターの素材データの解像度が足りない、あるいは指示に対して面積的に不足がある場合などは、あらためて素材データの要望をいたします。

外観データが出来上がりましたら一旦ここで、AI、PDFでの版下校正原稿を作成し、お客様にご確認いただきます。結果問題がなければ、版下(完全版下)データの作成を進め、試作・本番の印刷を順次行なってていきます。

まとめ

末章で触れることではありませんが、冒頭部分で触れました「お客様より「版下データ」をご支給いただくことは標準的」という部分は、これはこれで事実ではあるのですが、全てのお客様がIllustratorをお持ちであるはずもなく、工業製品印刷では印刷図(印刷指示図)に基づき弊社で版下を作成することもまだ多くあります。インクジェットのデザインデータのセクションで類似の例を説明させていただきましたが、これは実はインクジェットに限らず、スクリーン印刷、パッド印刷の場面でも実際に行なっていることです。

また今回はスクリーン印刷、パッド印刷、インクジェットと、個別に説明しましたが、製品によってはインクジェットとスクリーン印刷を組み合わせたりと、複合的な印刷方式を取るケースもあります。その場合の版下データはより複雑な条件になってしまうように思えますが、データの仕様条件については、それぞれの印刷方式に基づきますので、基本的にはこちらで説明したことが適用されます。

印刷の世界は広く深く、また技術発展も進んでいきます。ここで述べたこともいつの間にか時代遅れになっていたり、弊方の知見が不十分なところがあるかもしれません。ご質問をはじめ、お気づきになられた疑問、相違点などございましたらご指摘いただけるとありがたいです。

さて、長い記事になってしまいましたが、最後にこれまで説明した内容をまとめた表を上げておきますので、ご活用いただけましたら幸いです。


印刷原理と版下データ/デザインデータの仕様表

【ご注意】この表は、弊社実務・実績で得られた知見をもとに内容を記載をしています。印刷方式やデータについては原則があり業界一般に共通する部分も一定範囲ありますが、必ずしも全ての印刷会社で標準的・認識されているものではありません。あくまで弊社の知見の範囲であることをご承知の上、ご参照願います。

※各表はPDFでも用意しました: スクリーン印刷 | パッド印刷 | インクジェット

要件要素 スクリーン(シルク、シルクスクリーン)印刷 備考
印刷方式 区分 孔版方式 スクリーン印刷以外に、謄写版(ガリ版)ステンシル、型染めの紙型などある
印刷原理 パターンの形状に開口された領域からインクを透過させて、対象物に転写する。 参照(ウィキペディア)
主な特徴
  • シンプルな印刷原理、構造で応用幅が広く、工業製品、アパレル、建材をはじめさまざまな業界・市場で広く応用、採用されている印刷方式である。
  • 多種多様な材料・物に印刷できる。
  • 特殊な色、機能を持つインクが多く用意されている
  • インクの塗膜が他の印刷方式と比較して厚く、塗膜耐久性、発色性など優れる。
  • 一般に一つのパターンへは単色の色面として印刷され、これらを単体で用いる(単色印刷)、あるいは組み合わせて一つの意匠を表現する(多色印刷)。通常パターン内にグラデーションなどの階調を持たせるには網点処理(スクリーニング)を行なってパターンを作る。
  • 基本的に平面上に印刷。複雑に湾曲した面などへの印刷は困難。ただし円柱側面などの単曲面上への印刷は曲面印刷機を使用し印刷できる。

発色性の差については、一般にシルク印刷が優れているが、色によってはインクジェットの方が良い場合もある。

階調表現については、特殊技法としてグラデーションを表現する方法があるが、工業製品印刷で用いられる例は少ないと思われる。

シルク・パッドでも4色(CMYKプロセス)等のドット(網点)での掛け合わせで色を表現することはできるが、ドットの密度(見た目のインク粒子の粗さ)は点の一つ一つが肉眼で見えるレベルが一般的である。

製版仕組み
  1. フレーム(版の外枠)に紗(網・メッシュ)を張り、紗の全面に感光乳剤をコートし一旦乾燥させる。
  2. 版下データから原版フィルムを出力する。原版フィルムはインクが出るパターン部分が黒(光が透過しない)、その他は透明な状態のフィルムである。
  3. 原版フィルムを1)の印刷面に密着させ、原版フィルム越しに紫外線で露光する。版にコートされた乳剤は、原版フィルムの透明部分を透過した紫外線により非水溶性に反応する。
  4. 露光させた版を水でスプレーすることで乳剤の未硬化部分(紫外線の当たらない原版フィルムの黒の部分(紫外線の影になる部分)を洗い流すことで、ここが版のインクが出る開口部(孔版の「孔(あな)」)となる。
印刷方式・原理の違いを比較するという主旨に基づき、詳細な作業などの説明は省いた。近年ではシルク、パッド(樹脂版)は原版フィルムを用いず、直接版に描画する製版方式も珍しく無くなってきた。

(インク)
インクメーカーからは基本色として何種類かの色が提供されている。これ以外の色のインクで印刷する時は、基本色の中からいくつか選び、これを調合することによって得る。 基本色以外に、多数の特殊な色(シルバー、パール、蛍光, etc)や触感・質感・機能性を持たせたインクがメーカーより提供されている。
1色1パターン(≒1色につき1版)で印刷される “≒” で1色1版なのは、1版に複数のパターンを組み版することもあるため。
版下データ 基本要件
  • ベクターデータはカラーモードをCMYK/グレースケールに。
  • ラスターデータはカラーモードをモノクロ2値(blac&white)に。

*パターンのデータは必ず2値–––黒(K=100%)と白(K=0%)で構成され、そのほかの色(あるいは上記以外のカラーモード)は、排除されるか、スクリーニング(網点化)される。

製版仕組みで述べたように、スクリーン・パッド版はインクが出る(ON)/出ない(OFF)という原理構造になっており、この理由からグレー(ONとOFFの中間)部分は排除される。
データ形式 ベクターデータが望ましい。ラスター(ビットマップ)は条件付きで使用可 テキストデータは要アウトライン化。(PDFはフォント情報が埋め込みされていれば、AI上でアウトラインとして拾い出すことができる)
ファイル形式

【ベクター系】

  • AI(◎ 推奨)、EPS(○〜◎ 使用可)、PDF(○ 使用可)
  • DXF, DWG(△〜○ 利用可)
  • SVG(× 非推奨)

【ラスター系】

  • JPG, PNG, TIF, PS, etc.(△ 利用可)

DXF / DWGは形状データ取得メイン。

ラスターはロゴなどベクターデータが用意できない場合、あるいは階調表現を行う場合などで、ベクター系ファイル内に部分的に配置され用いられることが多い(「複合データ」参照)。

ラスターデータの
条件
  • 解像度は最低600dpi以上(推奨900dpi〜1200dpi:パターンの細かさによる。)
  • 「データ基本要件」を満たすもの。
解像度の最低値は印刷、製版ができないということではない。(弊社の見解として)仕上がりに明らかに低解像度による影響が出始めるという値として挙げる。
複合データ AI, EPS, PDFはベクターデータとラスターデータを混在し配置できる。この場合のラスターデータについての条件は上の「ラスターデータの条件」の通り。AI等、リンクとして画像が配置されている場合はそのリンク画像のファイルも版下データと一緒に支給してください(埋め込まれている場合は不要)。
トンボ・合わせ
罫線等
  • ファイル内の印刷部とは別のレイヤーに、印刷対象の製品・部品の印刷面の形状データが(印刷位置と合わせた状態で)配置されることが望ましい。
  • 完全版下の段階では基本的に位置合わせのためのトンボの配置は(印刷作業の作業性に関わるため)弊社で行うが、目安や基準点としてトンボや合わせ罫線を配置いただけるとありがたい。
工業製品印刷では印刷位置の指示方法が、版下データの他、図面(印刷図)で行われることが多い。例えばDXF等で図面データをいただき、ここから版下データに展開することも一般に行われている。
多色・特殊技法に
ついての対応
  • 多色刷りの場合、付帯工程の発生、印刷順序、トラップ処理など、これらに向けた版下データ作りが求められる。これは印刷方式での一定以上の知見を必要とするため、以降の段のデザインデータとして提示いただく場合が多い。
  • グラデーション表現、特殊技法の場合は基本的に印刷業者内での作業となる。
“付帯工程”とは例えば色の発色性を担保するために「下地」「押さえ」など、外観以外の印刷工程が発生する場合があるが、このようなもの(他の理由もいくつかある)を指す。
デザインデータ
(多色印刷用データ)
データ基本要件
  • カラーモードはCMYKであることが望ましい。別途カラーブック等で印刷色色指定があるものはRGB/CMYKいずれでも良い。
  • パターン(色面)個別に選択、編集できるデータ形式であることが望ましい
  • 単色(あるいは2色間程度)の階調によるグラデーションは網点化される。写真のような複数色が交わる階調は基本的にCMYK等の4色分解となる。(→備考参照)

「色面」は単一の色で塗りつぶされた面を指す。つまりその面がその色で印刷されるパターンとなる。

ラスター系のファイルの場合は「ラスターデータの条件」参照。

CMYKではなく、複数の特色を用いた階調表現もある。

ファイル
形式
(「版下データ」の条件に準じる)
ラスターデータの
条件
  • 複数の色面(ベタ面)で構成されるデザインは、一色毎にパターンとして切り出して版下データにしてゆく。パターンの切り出しはベジェでのトレース作業で行うことが多く(つまりラスターからベクターデータへ変換作業とも言える)、版下データとして利用する。
  • 解像度は最低600dpi以上(推奨900dpi〜1200dpi:パターンの細かさによる。)ベジェでのトレース作業を行う場合は、パターンのサイズと解像度の関係が十分である必要がある。
  • その他「データ基本要件」を満たすもの。
トレース作業は、ソフトウェアで自動的に行う場合もあれば、手作業で行う場合もある。そのため形状が複雑であったり、境界が曖昧であるもの、色数が多いたデザインの場合、作業量が膨大になるためラスターデータでの提示は(表末の「その他」で述べるように、データが現存せず、紙面等の資料のみあるような、やむをえない場合は除いて)避けるべき。
複合
データ
(「版下データ」の条件に準じる)
トンボ・合わせ
罫線等
有無不問。印刷される製品の形状(印刷面の形状)と印刷の位置は何らかの形で判明できるように。
その他 データ以外の原稿 データの現存しない製品や紙に描かれたロゴ、イラストなど、あらゆるものが想定できるが、平面のものであれば、写真やスキャニングを行い、立体物であれば印刷面の写真や寸法実測を行う。工業製品などは採寸からベクターデータで再現する、イラスト・ロゴなどの場合はスキャニングしラスターデータから始めるケースが多いと思われる。その後の処理については、望まれる印刷方式、仕上がりによってまちまちである。 さまざまなケースが考えられますので、対応可否、必要な資料等、詳細についてはお問合せください。

要件要素 パッド(タンポ)印刷 備考
印刷方式 区分 凹版方式(間接転写) ス他に銅版(エングレービング、エッチング)、グラビア印刷など
印刷原理 パターンの形状に刻まれた(凹んだ)面にインクを充填し、そこにシリコーンパッドに押し付けパッドに転写し、これをさらに対象物に押し付けて転写する。 参照(ウィキペディア)
主な特徴
  • 柔軟性のあるシリコーンパッドを介して転写を行うので、平面上だけでなく、単曲面、複曲面上への印刷など、他の印刷方式では不可能な形状のものに印刷ができる。
  • 微細なパターン再現に比較的優れる。
  • 印刷対象物の材料種類範囲が豊富。
  • 特殊な色、機能を持つインクが多く用意されている。
  • 一般に一つのパターンへは単色の色面として印刷され、これらを単体で用いる(単色印刷)、あるいは組み合わせて一つの意匠を表現する(多色印刷)。通常パターン内にグラデーションなどの階調を持たせるには網点処理(スクリーニング)を行なってパターンを作る。
  • 塗膜が比較的薄く、一度に広いベタ面を印刷するのは苦手。

パッドの硬度、特性(インクの転移性)、形状が様々あり、オリジナルで制作することも可能。これにより、例えばめもりダイアルつきのツマミなど、突起(ツマミ)の周辺に目盛りを印刷する、などが可能。

インク塗膜が薄いため印刷された塗膜の乾燥が早く、半乾きの状態でもパッドへの再転写がない特性があり、インクの発色・ベタ面を安定させる目的で2度押し(同時パターンを2回パッドで転写する)を行うときがある。またこの特性を活かし、複数の版+転写機構が並んだ多色機によって、流れ作業のように連続して多色印刷できる(多色機は弊社は所有してません)。

スクリーン・パッドでも4色(CMYKプロセス)等のドット(網点)での掛け合わせで色を表現することはできるが、ドットの密度(見た目のインク粒子の粗さ)は点の一つ一つが肉眼で見えるレベルが一般的である。(スクリーンよりもパッドの方が若干細やか)

製版仕組み
    (代表的な金属版と樹脂版について概要を記載)

  1. 【金属版】金属版にエッチングのためのレジスト(感光層)をコートする。【樹脂版】樹脂版は元々用いる基材が感光性の性質も持つ。
  2. 版下データから原版フィルムを出力する。原版フィルムは、印刷されるパターン部分が黒(光を遮断)、その他は透明である。
  3. (1.)に基材に原版フィルムを密着させて原版フィルム越しに紫外線を露光する。透明部分を透過した紫外線により感光層が硬化し、黒の部分は未硬化のまま残る。
  4. 【金属版】未硬化部分を薬液で洗い流したのち、酸や塩化鉄などのエッチング液で金属を溶解除去することで凹部を形成する。【樹脂版】未硬化部分を現像処理で除去すると、黒の部分に相当する領域が凹部となる。
パッド印刷の版の基材でよく使用されるものは金属版 と 樹脂版 があるが、他に微細なパターンを印刷する際に使用されるガラス版もある。なお樹脂版と金属版の簡単な用向きの比較としては;

  • 金属版はスチールや薄い鋼板でできており耐久性が高く量産に適する。
  • 樹脂版は感光性ポリマーシートを用いたもので、製版が容易で小ロットや試作に適する。

ということが言える。


(インク)
インクメーカーからは基本色として何種類かの色が提供されている。これ以外の色のインクで印刷する時は、基本色の中からいくつか選び、これを調合することによって得る。 基本色以外に、多数の特殊な色(シルバー、パール、蛍光, etc)や触感・質感・機能性を持たせたインクがメーカーより提供されている。スクリーン印刷用のインクも使用できるが、印刷方式の構造上生じる制約のためスクリーン印刷よりも若干バリエーションの幅は狭くなる。
1色1パターン(≒1色につき1版)で印刷される “≒” で1色1版なのは、1版に複数のパターンを組み版することもあるため。
版下データ 基本要件
  • ベクターデータはカラーモードをCMYK/グレースケールに。
  • ラスターデータはカラーモードをモノクロ2値(blac&white)に。

*パターンのデータは必ず2値–––黒(K=100%)と白(K=0%)で構成され、そのほかの色(あるいは上記以外のカラーモード)は、排除されるか、スクリーニング(網点化)される。

製版仕組みで述べたように、スクリーン・パッド版はインクが出る(ON)/出ない(OFF)という原理構造になっており、この理由からグレー(ONとOFFの中間)部分は排除される。
データ形式 ベクターデータが望ましい。ラスター(ビットマップ)は条件付きで使用可 テキストデータは要アウトライン化。(PDFはフォント情報が埋め込みされていれば、AI上でアウトラインとして拾い出すことができる)
ファイル形式

【ベクター系】

  • AI(◎ 推奨)、EPS(○〜◎ 使用可)、PDF(○ 使用可)
  • DXF, DWG(△〜○ 利用可)
  • SVG(× 非推奨)

【ラスター系】

  • JPG, PNG, TIF, PS, etc.(△ 利用可)

DXF / DWGは形状データ取得メイン。

ラスターはロゴなどベクターデータが用意できない場合、あるいは階調表現を行う場合などで、ベクター系ファイル内に部分的に配置され用いられることが多い(「複合データ」参照)。

ラスターデータの
条件
  • 解像度は最低600dpi以上(推奨900dpi〜1200dpi:パターンの細かさによる。)
  • 「データ基本要件」を満たすもの。
解像度の最低値は印刷、製版ができないということではない。(弊社の見解として)仕上がりに明らかに低解像度による影響が出始めるという値として挙げる。
複合データ AI, EPS, PDFはベクターデータとラスターデータを混在し配置できる。この場合のラスターデータについての条件は上の「ラスターデータの条件」の通り。AI等、リンクとして画像が配置されている場合はそのリンク画像のファイルも版下データと一緒に支給してください(埋め込まれている場合は不要)。
トンボ・合わせ
罫線等
  • ファイル内の印刷部とは別のレイヤーに、印刷対象の製品・部品の印刷面の形状データが(印刷位置と合わせた状態で)配置されることが望ましい。
  • 完全版下の段階では基本的に位置合わせのためのトンボの配置は(印刷作業の作業性に関わるため)弊社で行うが、目安や基準点として仮トンボや合わせ罫線を配置いただけると助かります(→ 備考参照)。
パッド版はスクリーン版のように、版に焼き込んだパターンを部分的に”目止め(インクが出ないよう修正する)”ことが容易にできない。このため必要なパターン以外の位置合わせのためのトンボなどは完全版下(および版)には含めないことが多い。よって製品形状、印刷位置の情報はあくまで印刷作業での設定、管理上の必要性となる。
多色・特殊技法に
ついての対応
  • 多色刷りの場合、付帯工程の発生、印刷順序、トラップ処理など、これらに向けた版下データ作りが求められる。これは印刷方式での一定以上の知見を必要とするため、以降の段のデザインデータとして提示いただく場合が多い。
  • グラデーション表現、特殊技法の場合は基本的に印刷業者内での作業となる。
“付帯工程”とは例えば色の発色性を担保するために「下地」「押さえ」など、外観以外の印刷工程が発生する場合があるが、このようなもの(他の理由もいくつかある)を指す。
デザインデータ
(多色印刷用データ)
データ基本要件
  • カラーモードはCMYKであることが望ましい。別途カラーブック等で印刷色色指定があるものはRGB/CMYKいずれでも良い。
  • パターン(色面)個別に選択、編集できるデータ形式であることが望ましい
  • 単色(あるいは2色間程度)の階調によるグラデーションは網点化される。写真のような複数色が交わる階調は基本的にCMYK等の4色分解となる(→備考参照)。

「色面」は単一の色で塗りつぶされた面を指す。つまりその面がその色で印刷されるパターンとなる。

ラスター系のファイルの場合は「ラスターデータの条件」参照。

CMYKではなく、複数の特色を用いた階調表現もある。

ファイル
形式
(「版下データ」の条件に準じる)
ラスターデータの
条件
  • 複数の色面(ベタ面)で構成されるデザインは、一色毎にパターンとして切り出して版下データにしてゆく。パターンの切り出しはベジェでのトレース作業で行うことが多く(つまりラスターからベクターデータへ変換作業とも言える)、版下データとして利用する。
  • 解像度は最低600dpi以上(推奨900dpi〜1200dpi:パターンの細かさによる。)ベジェでのトレース作業を行う場合は、パターンのサイズと解像度の関係が十分である必要がある。
  • その他「データ基本要件」を満たすもの。
トレース作業は、ソフトウェアで自動的に行う場合もあれば、手作業で行う場合もある。そのため形状が複雑であったり、境界が曖昧であるもの、色数が多いたデザインの場合、作業量が膨大になるためラスターデータでの提示は(表末の「その他」で述べるように、データが現存せず、紙面等の資料のみあるような、やむをえない場合は除いて)避けるべき。
複合
データ
(「版下データ」の条件に準じる)
トンボ・合わせ
罫線等
有無不問。印刷される製品の形状(印刷面の形状)と印刷の位置は何らかの形で判明できるように。
その他 データ以外の原稿 データの現存しない製品や紙に描かれたロゴ、イラストなど、あらゆるものが想定できるが、平面のものであれば、写真やスキャニングを行い、立体物であれば印刷面の写真や寸法実測を行う。工業製品などは採寸からベクターデータで再現する、イラスト・ロゴなどの場合はスキャニングしラスターデータから始めるケースが多いと思われる。その後の処理については、望まれる印刷方式、仕上がりによってまちまちである。 さまざまなケースが考えられますので、対応可否、必要な資料等、詳細についてはお問合せください。

要件要素 インクジェット(UV、UV-IJP)印刷 備考
印刷方式 区分 インクジェット方式(無版)

インクジェットプリンターは同源の原理を持っていても、業界での用途によって幅広い機構・構造のものがある。この表では主に工業製品業界の中で任意のグラフィックをフィルムや立体物に印刷するタイプの(つまり弊社で使用している)プリンターを前提として記載する。16

参照(ウィキペディア)

印刷原理 印刷したいデジタルデータ(画像やパターン)がコンピュータプログラム(RIP)を介してプリンターへ伝えられ、プリンターのヘッドから微小なインク滴・ドットが吐出されることによって、印刷対象物(メディア)上に画像形成–––すなわち「印刷」される。
主な特徴
  • 4色(時に6色〜)の原色インクを掛け合わすことで単色のグラフィックから写真のようなフルカラー表現が可能。
  • 基本的に平面上への印刷に限定されるが、多少の高低差であれば単曲面、複曲面上など凹凸のある面にも印刷可能。プリンター機種によっては、円柱の円周面など単一曲面上への印刷ができるものもある。
  • 印刷作業に身体的な熟練性は不要なため、スクリーンなどと比べ手軽に印刷ができる。
  • インクの塗膜が他の印刷方式と比較して厚く、塗膜耐久性、発色性など優れる。
  • 版が不要な分、少量多品種・多色の印刷などで初期費用を抑えられる。
  • インクはプリンターメーカーに依存するため、印刷業者が独自の色に調合、開発することは難しい。
  • 同様の理由により、印刷できる(一定の密着性・耐久性が見込める)材料の幅が限定される傾向がある。

単色のパターンでの発色性の差については、一般にスクリーン印刷が優れているが、インクジェットの方が発色が良い色域もある。

「身体的」な熟練は不要なので、この点で(単に印刷するだけであれば)「手軽に」印刷することはできる、とした。が、高品質な印刷を行うためには、幅広いさまざまな知識・技術が必要であり、他の印刷方式と同様である。

版が無いということは、版のスペックに依存しないということなので、ここにもインクジェットの可能性があると感じる。

製版
仕組み
(物理的な版は無い)

(インク)
描画する色は固定的な原色(標準的には:C [シアン]、M [マゼンタ]、 Y [イエロー]、K [ブラック] の4色)のドット密度で混色合成される(掛け合わせ)。これらの混色は印刷時にプリンターによって行われ、インク自体を事前に調合して独自の色のインクで印刷することはできない。

CMYKの4色では淡い中間色からハイトーンまでの色再現でインクのドット(粒子感)が目立つ、階調飛びが生じる等の問題をカバーするため、ライトシアン、ライトマゼンタなどを加えるなどした4色以上の基本色セットを持つプリンターもある。

特殊な色(メタリックや蛍光色など)の印刷は不可(いくつかのプリンターメーカーにより開発されているが現時点では一般的ではない)。

(版を用いない無版方式) 用語としてカラー版、ホワイト版、プライマー版など特色を含む印刷プロセスがレイヤー構造になる場合に便宜的に「版」の概念を流用する(もちろん実態はデータ)。また元の版下(デジタルデータ)を版と言う場合もある。
版下データ 基本要件
  • カラーモードはCMYKであること。RGBは不可。この範囲でパターン内の色情報には制約なし。
  • パターン個別に選択、編集できるデータ形式であることが望ましい。
一部の印刷会社ではRGBモードのまま入稿→印刷できるところもあるらしい。ので、原稿のカラーモードについては過渡期であるようだ。
データ形式 ベクター、ラスター両方可(ただしデザイン内容・編集条件により優劣––扱い易さに違いが出る時がある) テキストデータは要アウトライン化。(PDFはフォント情報が埋め込みされていれば、AI上でアウトラインとして拾い出すことができる)
ファイル形式

【ベクター系】

  • AI(◎ 推奨)、EPS(○〜◎ 使用可)、PDF(○ 使用可)
  • DXF, DWG(△〜○ 利用可)
  • SVG(× 非推奨)

【ラスター系】

  • JPG, PNG, TIF, PS, etc.(○ 使用可)

DXF / DWGは形状データ取得メイン。

ラスターデータの条件
  • 解像度は、カラー/グレースケールの場合300dpi〜600dpi程度。モノクロ・2値データをKのみで出力する場合は900dpi〜1200dpiが目安。
  • その他「データ基本要件」を満たすもの。

カラー画像の解像度は、プリンター出力解像度の1/3〜1/2を目安とする。解像度の単位のppi(pixel per inch)とdpi(dot per inch)は意味的には異なるが、インクジェットにおいては実質同じと見て良い。

ちなみにスクリーン・パッド印刷のラスター画像よりも要求解像度が低くなるのは、簡単に言うと出力方式が異なるため。17

複合
データ
AI, EPS, PDFはベクターデータとラスターデータを混在し配置できる。この場合のラスターデータについての条件は上の「ラスターデータの条件」の通り。AI等、リンクとして画像が配置されている場合はそのリンク画像のファイルも版下データと一緒に支給してください(埋め込まれている場合は不要)。
トンボ・合わせ
罫線等
  • ファイル内の印刷部とは別のレイヤーに、印刷対象の製品・部品の印刷面の形状データが(印刷位置と合わせた状態で)配置されることが望ましい。
  • 完全版下の段階では基本的に位置合わせのためのトンボの配置は(印刷作業の作業性に関わるため)弊社で行うが、目安や基準点としてトンボや合わせ罫線を配置いただけるとありがたい。
工業製品印刷では印刷位置の指示方法が、版下データの他、図面(印刷図)で行われることが多い。例えばDXF等で図面データをいただき、ここから版下データに展開することも一般に行われている。
多色・特殊技法に
ついての対応
  • インクジェットのカラー出力については、スクリーン・パッドと同じ意味での多色工程という概念はない(フルカラーでの印刷が通常であるため)。あえて言えば、カラー以外の特色(ホワイト、プライマー、クリア)などが多色の概念に近いか。
  • レアケースであるが、個々の色の彩度、黒の漆黒度の向上目的で、色を重ねて印刷するということがある。
  • 上記の特色や重ね印刷のデータについては、スクリーン印刷と同じような付帯工程の発生、トラップ処理など、これらに向けた版下データ作りが求められる場合がある。
  • 特殊技法の場合は基本的に印刷業者内での作業となる。
“付帯工程”とは例えば色の発色性を担保するために「下地」「押さえ」など、外観以外の印刷工程が発生する場合があるが、このようなもの(他の理由もいくつかある)を指す。
デザインデータ
(多色印刷用データ)
データ基本要件
  • カラーモードはCMYKであることが望ましい。別途カラーブック等で印刷色色指定があるものはRGB/CMYKいずれでも良い(版下データへの展開作業で、この色指定をもとにCMYKへ変換できる。
  • パターン(色面)個別に選択、編集できるデータ形式であることが望ましい

「選択・編集」しやすいデータとしたのは、出力結果の色調整を行う際に画像全体のカラーバランスでは的確な色再現ができない場合、画像に含まれる色を個別に調整したい時があるため。

(「色面」は単一の色で塗りつぶされた面を指す。)

ファイル
形式
(「版下データ」の条件に準じる)
ラスターデータの
条件
(「版下データ」の条件に準じる)

データの解像度が不十分で、小さいパターンのエッジを拾いたい(明瞭にしたい)場合などはベクターデータへの変換、あるいは組み合わせが必要になる時がある。

ベクターデータで表現可能なグラフィックについては、色調整やトラップ処理などの作業を念頭とすると、ラスターよりもベクターで入稿頂く方が、弊社としては扱いやすい。

複合
データ
(「版下データ」の条件に準じる)
トンボ・合わせ
罫線等
有無不問。印刷される製品の形状(印刷面の形状)と印刷の位置は何らかの形で判明できるように。
その他 データ以外の原稿 データの現存しない製品や紙に描かれたロゴ、イラストなど、あらゆるものが想定できるが、平面のものであれば、写真やスキャニングを行い、立体物であれば印刷面の写真や寸法実測を行う。工業製品などは採寸からベクターデータで再現する、イラスト・ロゴなどの場合はスキャニングしラスターデータから始めるケースが多いと思われる。その後の処理については、望まれる印刷方式、仕上がりによってまちまちである。 さまざまなケースが考えられますので、対応可否、必要な資料等、詳細についてはお問合せください。

註記一覧

  1. ご存知の方も多いだろうが「データ」の前は版下は紙媒体(専用の厚紙用紙にパターンの手書きや写植文字を貼り付ける)だった。工業製品印刷の業界では1990年代後半から2000年初頭ぐらいまでのDTPの進化・浸透と並行して紙とデータが徐々に入れ変わってきた様に記憶する。
  2. 印刷方式によって異なる版下条件、印刷内容によって派生するプロセス、条件に基づき調整が必要なパラーメータ等のことを言っているのであるが、単に構文的なルールだけでなく、一定の経験値も要求されるので、確かにこれは業者側の作業だろうと思う(しかし、これも将来はどうなるかわからない)。
  3. どこまでを版下データと呼ぶべきか?というのは愚問なのかも知れないが、多くのデータ・ファイル形式・状態がある中で「版下」を主語にすると、冗長性・混乱が生じそうであったので版下データよりも「緩い」デザインデータを設定した。
  4. カラーモードをRGBの黒(#000000)からCMYKに変換したときの状態。CMYKのそれぞれの数値がバラバラになっている。
    カラーモードをRGBの黒(#000000)からCMYKに変換したときの状態

  5. 版下データとしては2値が望ましいが、版下製作作業としてはパターンと混同を避けたいので、黒白以外の色で明示される方がありがたい。版に含めるトンボなどはこちらで最終的に2値に直します。
  6. カラーブックとはいわゆる企業や団体から出版されている色見本帳のことである。「〇〇(カラーブックの名前)の△△△(固有の色番号、ID等)で」のように指定する(例えば「"PANTONE Solid Coated"の432Cで」などなど)。色々な団体からさまざまに出版されており、弊社で全てを所持することはできないのが実情です。弊社ではDIC、PANTONE SOLID COLOR、日本塗料工業会等の色見本帳は常備しております。これ以外のカラーブックの色指定での可否については予めお伝えいただけると助かります。弊社で所有なく入手困難な場合は、お客様よりご支給をお願いすることがあります。
  7. ここで言う「プロセス設計」とは、どのような印刷手法で、どのような工程を踏むか?外観から見えるカラーの工程以外にも付帯的な工程もあるのでその有無・必要性の検討、印刷前後の関連加工などとの連携・整合性などを考える(設計する)段階のことを指している。

    一般的な製造業の文脈で「プロセス設計(Process Design)」と呼んでよいものかは、本来微妙。印刷工程は製品製造プロセスの一部であるので、厳密には工程設計(Operation Planning)に近い位置付けだろう。ただし弊社では複数の印刷手法や、印刷以外の内外の加工まで含め、工程の順番、工程間の整合性(品質・効率・経済性)全体を通し検討し構築する作業になるので、便宜的ではあるが「プロセス設計」と呼ぶ。

  8. 実際に支給頂くDXF、DWGは同じファイル形式であっても、その時々によってイラレで読み込んだ結果については幅がある事態になっている。CADソフトウェアは多くのメーカーがリリースしており、個別のソフトウェアの特性や、設定、互換性などに起因する現象が多くあって、また弊社のCADの知見も多くないことから、適切なCADの設定についての指示・お願いができない。
  9. 例えばCADソフトは「形状」を構成する「線分」「円弧」「スプライン」などは個別の要素として管理する。一方イラストレーターなどのドローソフトは、形状を構成する線や曲線はまとめて一つのオブジェクト(ベジェ曲線データ)として扱うため、この様なデータ互換上の問題が生じるらしい。
  10. 【版へのインクの充填方法は?】インキプレートによって版全体にインクをかぶせた後、版の表面をブレード(剃刀の刃のようなもの)で掻き取ることで平滑面にはインクが除去され、凹んだ箇所のみにインクが残る状態になる。その後、版のパターン部分へパッドを押し付けた際に凹み部分のインクだけがパッドに転写され、不要なインクはパッドに転写されない。なのでブレードに傷などあると、版の表面上にインクが残り、これをパッドが拾ってしまうことで印刷不具合となる。

    さらに詳しくはこちらを参照(ウィキペディア)

  11. CMYKの4色では淡い中間色からハイトーンまでの色再現でインクのドット(粒子感)が目立つ、階調飛びが生じる等の問題をカバーするため、ライトシアン、ライトマゼンタなどを加えるなどした4色以上の基本色セットを持つプリンターもある。
  12. カラー基本色以外のインクとしては、ホワイト、プライマーのほかにクリアーインクが搭載されていることが多い。プリンター(あるいはプリンターメーカー)によっては、シルバーなどのメタリック色、蛍光色など特殊なインクが用意されているものもある(現在のところ、クリアー以外は弊社での取り扱いはございません...)。
  13. いずれにせよ、要望をいただいた場合は、弊社にてカラーサンプル、色校正稿など作成し、ご確認いただけます。
  14. RGBのカラーモードが不可であるのは(ごく簡単に言えば)RGBとCMYKではそれぞれの色空間を成り立たせる混色原理が異なる–––RGBは基本の発光色(赤/緑/青)の混合でそれぞれが加算的な関係を持つ(ので全て足すと白(というか一番眩しい光))が、CMYKは基本色が減算的に交わる関係である(ので全て足すと黒/原理的には/になる)から。つまりCMYKは印刷されるメディア(紙とか物とかの)の白さが明るさ(鮮やかさ)の上限が決定されるが、RGBにはそのような物理的制約(表示するディスプレイの輝度性能とR, G, Bの制御精度次第ではあるが)がないので、人が知覚する色空間の広さとしてはRGBの方が広くなる。
  15. ウェイト

    は文字の太さ加減。「レギュラー」、「ボールド」はよく目にするが「ライト」「ミディウム」「ブラック」あるいは単に数値でのものなどもある。スタイルは斜体[oblique](イタリック[italic])や長体デザイン(コンデンス)平体デザイン(エクステンド)等を指す。

  16. 近年UV(紫外線)硬化型インクを使用したインクジェットの印刷を単に「UV印刷」と呼ぶことがあるようだ。(スクリーン、パッドでもUV硬化型インクはあるので、個人的見解だが少々紛らわしい呼び方に感じるので、せめて"UV-IJP"などと呼んで欲しい。)
  17. 少し細かく言うとインクジェットのカラー出力は基本CMYKの4色のドットがわずかにランダムに配置されることによって画像構成されることでピクセル間に視覚的な補間が生じ、階調・エッジがなだらかに見えるが、スクリーン・パッド版の原版となるリスフィルム(製版フィルム)は黒/無し(透明)のみのピクセルで画像構成されるので、パターンのエッジのドット(ピクセル)のシャギー・階段状のギザギザが目立つ。

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